リレーエッセイ12月

お茶のお稽古を始めて   河上さゆみ

茶道を始めて五年が経ちました。まだ人に語れるほどの腕前ではありませんが、日頃感じていることを記させていただきます。
私が、茶道を始めた理由を一言でいえば「見た目への憧れ」でした。着物姿の凛とした美しさや、お点前の静かな所作に魅かれ、お稽古へ通うようになりました。主人からは「動機が不純だね」と笑われますが、その不純な動機が、今の自分につながっています。
茶道は季節によってお稽古の内容が変わり、覚えることが尽きません。毎回一苦労ではありますが、新しい手順を覚えることは頭の体操になります。また、正座から立ち上がる動作は思いのほか筋肉を使い、心身の健康にもつながっていることを感じています。忙しない日々の中で、週に一度のお稽古は私にとって心と体を整える“リセットの時間”になっています。
そんな私に、茶道の見え方を大きく変えてくれた一冊があります。森下典子さんの『日日是好日』です。稽古の中で出会う小さな「気づき」や、道具に宿る季節の移ろいが丁寧につづられたこの本を読み終えて、茶道とは形を覚えるだけでなく“感じる心”を育てるものなのだと学びました。
それ以来、お稽古でも日常でも、五感が研ぎ澄まされるようになった気がします。お湯と水を注ぐときの音の違い、お湯を茶碗に汲み入れるときの呼吸の仕方、お相手に話しかけるときのタイミング。ただの作業だったものが、一つひとつ意味を帯びて感じられるようになりました。天気の悪い日も、例会でうまく話せず落ち込んだ日も、「どんな日もかけがえのない大切な日」 精いっぱい気持ちを込めて過ごすことが大切だと思えるようになりました。
とはいえ、私はまだまだ修行中です。お点前は覚えてもすぐ忘れてしまい、所作に必死になるあまり視野が狭くなってしまうこともしょっちゅうです。これからは、お相手への気配りや場の空気にも目を向け、会話にも余裕を持って臨めるようになりたいと思っています。お茶を通して人と向き合う心のゆとりを育てていくことが、これからの私の目標です。五年前、ただの憧れだけで始めた茶道が、今では私の心を整え、日々の豊かさを教えてくれる大切な時間となりました。これからも無理をせず、ゆっくりと、自分のペースで学びを深めていきたいと思っています。