リレーエッセイ3月

美食の街 ~サン・セバスチャン~   稲葉多恵子 

 美食とアートの街「バスク地方」
海外旅行ができない今、もう一度行きたいと思う旅先です。
スペイン北部に位置し、スペイン語とは異なるバスク語を話す独自の文化が守られている自治州です。
そこからさらにスペイン北西部とフランス南西部の国境に移動し、大西洋のビスケー湾に面した、のどかで美しい街がサン・セバスチャン。
海と山に囲まれて温暖な気候ですが、雨も多く自称晴れ女の私も雨風にさらされた事を思い出します。

 その旅のお目当ては、バル巡りと星付レストランへ行くことでした。
せっかくなら美味しいものを食べよう!と、事前に調べて厳選して行きました。
バルは開店と同時に「hola!」(オラ)と声をかけて入店し、カウンターに並んでいる食べたいピンチョス(小さなパンの上に色んな具材が乗っている)を指さしで注文します。
見た目にインパクトのある料理ですがどれを食べても〝美味しい~
お酒はバスク伝統のチャコリ(白ワインと柑橘類の超微発泡酒)で決まり。
バルをはしごした翌日は、少しおしゃれしてゆっくりテーブルで食事をする計画でしたが予定していた星付レストランはあいにくの休暇で落胆したことを思い出します。

 サン・セバスチャンは人口約18万人のそれほど大きくない街ですが、その30km圏内には当時ミシュランレストランが17軒、そのうち3軒は三つ星で「世界一美味しい街」と言われている所以です。独自の文化や自然の中には、豊かな美食を共有する深い理由がありそうで興味をそそります。

 この一年、新型コロナウイルス感染拡大で世界ではロックダウンなどにより、多くの国で外出規制が行われています。そのような中で、ステイホーム中の楽しみ方を見つけ料理のレパートリーも増えましたが、そろそろ美味しいレストランの料理も食べたい、旅行もしたい、サン・セバスチャンでお休みだった「アケラレ」にも行きたい、ビルバオでグッゲンハイム美術館もゆっくり廻りたい、
 そんな懐かしさと、やり残した想いがバスク地方の風景と共に広がるこの頃です