リレーエッセイ11月

文豪漱石〜熊本ーすみれに恋をして    北野 晶

 智に働けば角が立つ、情に棹させば流される、意地を通せば窮屈だ 子供の頃意味もわからず読んだ漱石の一節が今深く身に染み入るようになった。ソロプチミスト熊本すみれ会員に入会して6年目。
 一昨年すみれは30周年を迎えた。初期すみれ会員のメンバーは医師や教師、茶道、日本舞踊、音楽家など学術、文化に優れた方や日本初の女性幹部自衛官など郷土熊本だけではなく女性活躍推進もまだ活発ではない頃より社会の第一線で結果を残してこられた精鋭女史ばかりである。それだけではない、そのまた御主人方も熊本を代表する企業や病院の経営者や医師であり立派に夫を支えながら仕事、子育てと家庭を両立しすみれを牽引し続けて下さっている。

 入会当時、私は最年少だったので持ち前の明るさと若さで二倍は頑張るぞと意気揚々と自分自身を鼓舞していたが未だに全く先輩方の足元にも及ばないひよっ子でしかない。
月に一度の例会は本当に楽しみなものになった。まずはソロプチミストシンフォニーを全員で合唱し、会長の点鐘から始まる。出席者の確認があり議事録通りに委員会ごとに振り分けられた議題を全員で決定していく。時には白熱した意見が飛び交いどのご意見もごもっともでテニスの決勝戦を観るかの如く首を右に横に縦に振りながら見事に意見がまとまっていく様子はすみれならではの芸術さえ感じてしまう程である。そして会議が終わればお楽しみの食事である。さっきまで激しく意見を交わしていた先輩方同士が今度は笑顔でその月の誕生日のメンバーの1分間スピーチを聞きお祝いの歌と拍手を送る。今年日本中が歓喜に沸いたラグビーワールドカップの試合が紳士のスポーツマンシップであるならば熊本すみれの例会は淑女ソロプチシップとでも言ったものか。笑

 またこの1分間スピーチというのが実に面白い。すみれは33年の歴史を誇る。団塊の世代よりも更に上、昭和一桁世代の方もほぼ無欠席で現役でおられる。誕生日にはとうとう後期高齢者の保険証が届いた、運転免許証の返納ネタなど冗談を交えながら軽快にその人となりを知ることとなる。若い時のような俊敏さと記憶力に自信はないけれど、経験と実績の中で培われた思考や判断力は衰えるどころか益々輝きを増しておられる。常にすみれのあるべき姿を見据えまだ経験も思考も浅はかな若手の私達を正しい考え方で導き育てて下さっている。本当に有難くかけがえのない時間を過ごさせて頂いていると思う。

 そして忘れてはならないのはそんな時代から今の日本を共に作り支えてこられた最愛の伴侶やご家族との別れの時があるということ。それは生きとし生けるもの命ある限り必ず訪れる。私にも愛する主人がいる。永遠の命はないとわかっていてもいつかはやって来るその日を想像するだけでもその悲しみと喪失感は図り知れない。入会して幾度かそんな場面に直面した。そんな時すみれ会員は互いに見守り支え、寄り添いながら再びご活躍される時を静かに待つ。少しずつ少しずつ悲しみに覆われた氷が解けて出席の回数が増え笑顔で言葉を交わされる姿を見せて頂く時、すみれという組織の在り方を誇りに思うのはもちろんのことすみれの一員であることを心から喜んでくれる主人にも感謝が増すばかりだ。とかくこの世は住みにくいと文豪漱石は熊本での教師時代を舞台に名作を残してくれたが、我らがすみれ会員との出会いがあったならば近代文学においても優れたこの有名な一節はもしかしたら違っていたかもしれない。

日本財団年次贈呈式にて
卒寿 米寿 傘寿 喜寿 還暦
歳祝いの会にて